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WindChallenger Projectについて

 プロジェクトの概要  硬翼帆の開発 帆搭載船の開発 最適航路手法の開発

1. プロジェクトの概要

  来たるべき低炭素社会へ向けて、船舶においても推進エネルギーのグリーン化が今後のグローバルな最重要技術開発課題です。「ウィンドチャレンジャー計画」は、これまでの常識を超えた巨大な硬翼帆を開発し風力エネルギーを最大限に取り込むことによって、現在全て石油燃料に頼っている大型商船の燃料消費を抜本的かつ大幅に低減させ、船舶からのCO2排出削減と将来の燃料費の高騰に対処するための次世代帆船の開発を企図して、2009年10月より工学系研究科にて東大を中心とした産学共同研究として発足しました。

第1期研究計画(2009年9月~2014年9月)
  2年間のフィジビリティ研究の結果、巨大な伸縮可能な硬翼帆(高さ50m、幅20m、面積1,000m2)と、これらを9枚搭載した大型貨物船(ケープサイズバルカー:載荷重量18万トン)での技術的・経済的・法規的な成立性が確認されました。船の性能としては横風(風速約12m/s)を受けた場合にはエンジンを使わなくてもほぼ従来の機走船と同等の14ノット航海速力を得ることが出来ること、また、無風状態や帆の使えない向い風状態も含めた実海域航海シミュレーションを行った結果、帆とエンジンのハイブリッド航海で年間平均30%程度(日本/北米西岸航路)の燃料消費低減が可能であること等がわかりました。
  この結果を受けて、2011年10月より新たな研究段階に入ることとし研究拠点も新領域創成科学研究科に移し、プロトタイプとしての大型伸縮式硬翼帆(1/2縮尺モデル:高さ25m、幅10m)の製作とその陸上屋外実証実験を行い、実船搭載に向けてのデモンストレーション及び最終的な設計資料・データを入手して実用化につなげる研究を行いました。研究予算は今後3年間で約1.7億円を予定し、そのうちの約半分は日本海事協会の「業界要望に応えた研究スキーム」による資金、残りは民間5社(日本郵船、商船三井、川崎汽船、大島造船所、タダノ)の自己資金で賄いました。実証機の完成を2013年冬とし、設置後1年間の連続実証試験を行いました。

第2期研究計画(2013年11月~2016年3月)
  第2期は、硬翼帆搭載大型商船の設計法・運航法の研究を行っています。第1期で開発したEPP (Energy Prediction Program)モデルやWCSS (WindChallenger Sailing Simulation)モデルの改良を行い、より具体的なウィンドチャレンジャー号の設計や運航方法の開発を行っています。特に、大型帆走船に対する最適航路計画、および貿易風や偏西風といった地球規模の風を上手く利用するための配船方法は、全く新しい海運ビジネスモデルの開発となります。
  研究予算は、国土交通省「次世代海洋環境関連技術研究開発費補助金」(代表事業者:大島造船所)により、第1期から引き続き日本海事協会と民間3社(日本郵船、商船三井、タダノ)の共同研究として行っています。

第3期研究計画(2014年10月~2017年9月)
  2014年9月に終了した第1期研究の後継として、新たに東京計器(株)の参加を得て3年間の第3期が発足しました。第1期にて製作したプロトタイプの陸上実験の解析・改良を行って実大機の製作法を確立すると共に、実船塔載へ向けた帆船用オートパイロットの開発、水槽試験による性能予測、大型硬翼帆搭載時の安心安全のためのHAZARD対策の他、規則等とのマッチングをはかって具体的な実装の検討・開発を行う予定です。2015年度中にこれらの諸課題をクリアーした上で、2016年には実船搭載船を決定。2017年には第1船の就航を目指します。

以降の図は、クリックすると大きくなります。

2. 硬翼帆の開発

活動報告写真   伸縮式硬翼帆は、プロトタイプを高さ50m・幅20m・面積1,000m2としました。帆の翼型断面形状は帆の性能において重要ですが、帆船として向風・横風・追風での種々の状態での総合的な検討の結果、キャンバー付きで圧力面もホロー形状の翼型を採用しました(左上図)。翼コード長に対する厚さの比は0.2 の厚翼として、迎え角を大きくしても背面からの剥離が起こりにくい特徴があります。硬翼帆に使用する素材は、CFRP(炭素繊維強化プラスティック)やGFRP(ガラス繊維強化プラスティック)、アルミニウムを検討しました(陸上試験はGFRP)。重量は素材によって変化しますが、約40tです。スパー部分は、口径2.2m~1.0mの鉄製(約60t)を使用します。
活動報告写真
  最大荷重700kN(風速15m/s, ガスト係数1.5)を掛けたときの応力をFEM解析で求めました。最大引張応力部(tension側)が248MPa、最大圧縮応力部(Compression側)が285MPaとなっています(右図)。





3. 帆搭載船の開発

活動報告写真   ウィンドチャレンジャー計画では当初、載貨重量18万トンのケープサイズバルカーを検討していました(詳しくはこちら)。

しかし、より小型のもので、デッキ上に帆を複数配置可能なデッキクレーンを持たない船種であること、石炭船のように荷主と就航航路が決まっていることなどを考慮し、続く第2の開発対象船は載貨重量8万4千トンの5Hold/5Hatch型ポストパナマックス型バラ積貨物船を選定しました。この船は浅喫水幅広船型で硬翼帆は各Hatch間に4本搭載しました(左上図)。また、帆の設置により、前方見通しを確保するため操舵室を前方に配置しました。
活動報告写真主要目はこちらから、一般配置図はこちらから。


  この船型を組み込んだCFD(数値流体力学)による空気力学的計算を行い、各風向に対する流線や圧力分布を明らかにしました(右図)。向い風では9枚の帆が全体で1枚の帆として働いており前進力はほぼ前方の3枚の帆のみで分担している様子がわかり、横風の場合は各翼に揚力が発生し、追風の場合は流れが剥離して抗力が発生していることがわかります。

活動報告写真  更に本研究では、EPP (Energy Prediction Program)という概念を新たに導入し、与えられた真風速・真風向・船速に対して、本船の船体・プロペラ・硬翼帆・舵の特性に基づき、斜航角・舵角・CPP変節角・必要馬力を予測し、どの程度の省エネが図られるかを見積るプログラムを開発しました。EPP計算を基に、帆の干渉や強風時の縮帆を考慮した各風速・風向に対する燃料消費量の低下率を求めたのが左図です。図中のTWSは真風速(True Wind Speed)、TWAは真風向(True Wind Angle)であり、船舶の移動速度を考えないときの風速・風向(北が0度で時計回り)です。船の真横(Abeam)からやや後ろからの風の時、省エネ効果が最大になります。例えば、風速20kt風向100度の場合、80%の省エネになります。


4. 最適航路手法の開発

活動報告写真   既存船に対する最適航路計画手法は多くのものがありますが、いずれも風を"敵"として扱い、いかに船が受ける抵抗を減らすかが重要でした。しかし、ウィンドチャレンジャー号は最大限に風を"味方"にしなくてはなりません。そこで、本プロジェクトではWCSS (WindChallenger Sailing Simulation)という独自のソフトウェアを開発し、最適航路シミュレーションを行いました。活動報告写真
  2.のEPP計算によっても止まった各風速・風向に対する推進力を基に、実際の気象データ(2004年)の風況の中を航行させて実際にどのくらいの省エネが出来るかを求める。当然、帆船と同じく有利な風(船の横から斜め後ろから吹く風)を求めて航行するため、大圏(最短距離の)航路とは大きくずれる場合があります。活動報告写真

 地球上の風は、海域や季節によって大きく異なります(左上図をクリックすれば月ごとの風の変動が見られます)。ここでは、横浜とシアトル(北米)を結ぶ北米航路でWCSSを行ってみました。例えば右図のケースでは、北海道の東に位置する強い低気圧の南側の有利な風を利用する最適航路が出力されます。。このように上手く風をとらえることで、航路が長くなっても大圏航路(約23%)より大きな省エネ(30%)が可能になります(左図下、満載時)。

  このようなシミュレーションを2004年1年間行うことで、北米航路(横浜 - シアトル)の省エネ率の月別期待値を計算しました(左図上)。偏西風が強まる冬季に省エネ率が上昇します。このように、既存船のように単純な往復航路では偏西風や貿易風帯では一方は有利であっても、逆航路は不利になる場合があります。従って、地球規模で季節や海域ごとの風の特徴を活かすような航路計画やウィンドチャレンジャー号の運用計画が重要になります。